環境
文=ERIKO
はじめまして。定住旅行家のERIKOです。
はじめまして。定住旅行家のERIKOです。
私は世界各国の家庭に滞在して、暮らすように旅をしています。
生活をともにすることによって、見えてくることがたくさんあります。
今までに訪問した国は50カ国以上、滞在した家庭は100以上になります。
本コラムでは、そんな旅の中で見つけたSDGs(持続可能な開発目標)の知恵をお届けします。
第1回はデンマーク。人にも環境にも優しい街、コペンハーゲンでの定住旅行は、気づきと発見の連続でした。
【プロフィール】
ERIKO(エリコ)
モデル・定住旅行家。鳥取県米子市生まれ。国内外のさまざまな地域で現地の人びとの家庭に入り、生活をともにし、その暮らしや生き方を伝えている。
訪れる国では積極的に民間外交なども行い、現地と日本の架け橋になる活動も行う。およそ50カ国にて106家族との暮らしを体験。
とっとりふるさと大使。米子市観光大使。
- 目次 -
・遠くて近い国、デンマーク
・にぎやかな食卓に流れる、ゆたかな時間
・街のあちこちをめぐる運河
・環境のために自転車に乗るデンマークの人たち
・サステイナブルな5つ星ホテル
遠くて近い国、デンマーク
デンマークという国名を聞くと、どんなイメージが湧くでしょうか。
子どものころに親しんだ童話作家のアンデルセン、シンプルかつデザイン性のある家具ブランド、バイキングの歴史、福祉に力を入れている国などが思い浮かぶかもしれません。デンマークは人口560万人の国。日本でいうと、北海道とほぼ同じ人口規模です。
日本とデンマークの関係を見ると、実は歴史が古いのです。デンマークには10世紀半ばから続く、欧州で最も古い王室があります。日本の天皇家との交流の歴史もあり、長年親密な関係を築いています。
また、食料自給率が生産額ベースで300%の農業・養豚大国であるデンマークから、日本は多くの豚肉を輸入しています。皆さんも知らず知らずのうちに食べているかもしれませんね。
私が北欧の国デンマークを旅したのは、季節が冬の準備に入ったような、雨やどんよりと曇った日が続く、2021年の秋でした。
滞在先は首都のコペンハーゲンに暮らす、ローンボルグ家。電気会社に勤めるクリスチアンさんと、IT企業の社長であるアンネさんのご夫婦。
デンマーク人は、結婚、出産、子どもの独立と、人生の節目に合わせて、生涯で3回引っ越しをすると言われています。
ローンボルグ夫妻も例にもれず、数年前までコペンハーゲン郊外に暮らしていましたが、子育てが終わったのと同時に、職場に近い都心へ引っ越しました。
コペンハーゲンの家族ローンボルグ家 週末の食事 “ヒュッゲ”の様子
にぎやかな食卓に流れる、ゆたかな時間
週末には家族全員が集まり「ヒュッゲ」をします。
これはデンマークに昔からある習慣の一つで、仲間たちと食事を取りながら、心地よく平和な時間を分かち合います。
これはデンマークに昔からある習慣の一つで、仲間たちと食事を取りながら、心地よく平和な時間を分かち合います。
ある日のヒュッゲでは、デンマークでクリスマスによく食べられる「エイブルスキーパー」というスイーツの秘伝のレシピを伝授してもらいました。見た目は日本人に親しみのあるたこ焼きのようなまん丸の形で、外はカリッとしていて、中はスポンジのようにふわふわです。ジャムなどと一緒に食べるとより美味しく味わえます。
伝統スイーツ「エイブルスキーパー」の作り方を教えてもらう
彼らが暮らすのは、アンディールスボーリヤー(協同組合住宅)と呼ばれるデンマークでは主流のシステムが採用されたマンションです。同じマンションに暮らす11家族が、共同オーナーとなり、管理、運営を行います。
この地域では、2021年から家庭用のゴミも、10種類に分別して出すことが義務付けられました。ゴミ出しのマナーを守ったり、清潔に保つのも、マンションの住人たちの協力によって行われます。
2021年から10種類の分別が義務付けられた
街のあちこちをめぐる運河
コペンハーゲンの魅力の一つは、なんといっても運河です。コペンハーゲンという言葉は元々、デンマーク語で「商人たちの港」を意味します。
デンマークは、東はバルト海、西は北海に面し、400以上の島々からなります。コペンハーゲンはシェラン島に位置しており、街中に網の目のように運河が流れています。
景色を見ながら運河沿いを散歩もするのも気持ちいい
この運河では、街をめぐるボートツアーが行われていて、観光客に人気です。また、運河を走る「ハーバーバス」と呼ばれる黄色の船は、現地の人にとって、大切な交通手段です。
このハーバーバスには、従来のディーゼルエンジンではなく、電気エンジンが搭載されています。メンテナンス費用などは高額になりますが、船から出る有害液体物質の排出をなくし、CO2削減など環境への配慮があります。
滞在先の家族と運河沿いを散歩している時、こんな話を聞かせてもらいました。
「この運河は昔、周辺の工場から流される汚染物質のせいで、とても汚れていたし、臭かったんだよ。それで15年前くらいから、コペンハーゲン市が環境改善の取り組みの一つとして、下水システムを改善したり、排水処理プラントを拡張したりして、水を浄化したんだ。ずいぶん時間がかかったけど、今では子どももこの運河で安心して泳げるようにまで改善されたんだよ。わざわざ地中海まで泳ぎに行かなくてもよくなったね」
市内の運河沿いにはいくつかのBathing zone(遊泳区域)が設けられており、夏場には多くの人たちで賑わうのだそうです。
環境のために自転車に乗るデンマークの人たち
実は、デンマークは自転車大国。国民のおよそ70%が、自転車で通勤や通学をしています。初めてコペンハーゲンの街を訪れたときは、その自転車の多さに圧倒されました。
市内の主要道路は、歩行者、自転車、自動車の3つレーンに区切られており、それぞれ信号が設置されています。
電車やバスにも自転車を持ち運べるスペースが設けられており、遠出の際にもお気に入りの自転車と一緒に移動することが可能です。
街中は歩行者、自転車、自動車とそれぞれレーンが分かれている
充実した市内の駐輪所
私は東京にいるときにも、8km圏内の距離であれば自転車で移動しているので、初めてコペンハーゲンで自転車に挑戦した時も、あまり抵抗はありませんでした。
なんといっても、坂の多い東京の街と違って、コペンハーゲンはたいらな土地しかなく、本当に走りやすい。駐輪場も多く、停めるところを探すストレスが少ないのも魅力です。
コペンハーゲンでは環境に配慮した自転車移動が主流
サステイナブルな5つ星ホテル
河沿いに、2021年の9月に建てられた一軒のホテルが、今世界中から注目を浴びています。
スペインに本拠地を構え、世界中にホテルを展開しているNHホテルグループがオープンした、サステイナブルな5つ星ホテルです。
一体どんなホテルで、どんなところがサステイナブルなのでしょう。
気になった私は、取材を兼ねてホテルを訪問させてもらいました。取材の日、コペンハーゲン市民のように自転車を利用してホテルへ向かいました。
昔から親しまれた外観をそのまま使用
環境に配慮した交通手段である自転車でホテルを訪問した私を、スタッフは大歓迎してくれました。
まず紹介されたのは、建物と内装。ホテルの外観は、元々造船所だった建物がそのまま使われており、内装も廃材などを利用したリサイクル材料でつくられています。
建物全体には、水管が備えつけてあります。運河の水が建物全体を走り、建物から生じる熱を冷ますという画期的な構造になっています。
屋上には、びっしり植物が植えられています。断熱効果があり、雨水の吸収ができるとのことでした。水や植物など、私たちの身近にあるもので、こんな工夫ができるんだと感心しました。
スイートルームからの眺め
ホテル内のレストラン 食材のほとんどがオーガニック
客室にあるベッドや椅子といった家具類にも、リサイクル素材が使用されています。
また宿泊客もサステイナブルなアクションに協力ができます。シーツやタオルの交換を省いた宿泊客へは、ドリンクを無料で提供します。電気自動車で来た人には駐車場を無料にするというサービスも行なっているようでした。
デンマークへの旅行を検討されている方は、「Planet Copenhagen」というアプリをダウンロードしておくと便利かもしれません。
このアプリは、地図上に文化施設、イベント、レストランなどを表示してくれるのですが、その全てがサステイナブルに関連するものです。従来の観光にプラスすれば、新しいコペンハーゲンの魅力に出会えるでしょう。
デンマークでの定住旅行では、「サステイナブル」というキーワードを無視して過ごすことができないほど、さまざまな活動に環境への配慮が感じられました。
環境への配慮と、心地よい暮らし。この2つが自然に共存しているコペンハーゲンの暮らしを体験することができました。